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さて、Manchesterのイミグレ。英国は出国はオープンだけど入国は厳しいという話は聞いていた。ぼくと向き合うのはまだ若い女性。すぐ後ろに先輩らしき女性が控えている。研修中あるいは実戦配備になったばかりということだろう。手抜きはしてくれそうにない。
「何しに来たの?」「フットボールを観に」「ふーん」ここまでは大丈夫だった。問題はここから。
「どこの試合?」
嘘をつくわけにもいかない。「オールダム・アスレチック」。
この答は彼女のアタマの中にまったく想定されてなかったようだ。表情から業務用の微笑が消えた。村上春樹『パン屋再襲撃』に、強盗に襲われたハンバーガーショップのアルバイト店員の話が出てくる。マニュアルにない事態に遭遇すると人間はどういう表情になるのか。なるほど、こういう顔をするのね。などと他人事のように書いてしまったが事態は深刻である。
なにせ手配師たろう君が同様の質問をされて、胸を張って「Man.City」と答えたら「You are CRAZY」と言われなかなか解放してもらえなかったというManchesterのイミグレだ。日本人の野郎がドイツから独りでやって来てサードカテゴリーの試合を観に来たと言って、はいそうですかと通してくれるはずがない。長い話になりそうだ。しかもこちらは英国人とやりあえるほどの英語力があるわけでは、もちろん、ない。
なぜだ。どうしてだ。なぜオールダムなんだ。矢継ぎ早に飛ばされる質問の中から、わかる単語をアタマの中で拾い出して彼女の質問を再構築しなければならない。
「あ、あの、あの、ホントはManCityの試合観たかったの、でもでも、明日に延期になっちゃって、で、えーと、近くで他に試合やってないかって調べて、んでオールダムを見つけて、ロッチデールもあったんだけど」「どうやって調べたの」「えーと、インターネットで」彼女はぼくの話すことを全部メモに取っている。オールダムに「ヘンな日本人が行くぞ」と連絡する気なんだろうか。1分もしゃべってないと思うんだけど、正直言ってすっごい消耗した。イミグレのゲートはEU限定とAll Nationsの2つ。もちろん、ぼくが並んでいるのはAll Nationsの方だ。後ろにはアメリカ人もいる。きっと、なんでこいつはこんなに英語が話せないんだと思っていたことだろう。ちくしょうちくしょう。
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